スティーブ・コーゼンの軌跡

英米でリーディングに輝き、5か国のダービーを制覇した天才騎手スティーブ・コーゼン (Steve Cauthen) に関する情報を記載します。

「繊細」かつ「大胆」、真の意味で「正確」な騎乗①ー1985 Stable Stud and Farm Stakes, 1986 Bovis Handicap ほかー

2023年に公開されたコーゼンのイギリス競馬殿堂入り記念動画において、元イギリス人騎手レイ・コクレーン (Ray Cochrane) はコーゼンについて「レースの戦術面でも圧倒的に優れていたが、同時に本当にクリーンに乗る騎手だった。彼が他の馬の邪魔をしているところを見たこともないし、レース後にコーゼンが他のジョッキーと口論しているところを一度として見たことはなかった」と語っていますが(2:30~)、コーゼンの騎乗はとにかく「丁寧」で「繊細」、それでいて「大胆」です。1983年の Dubai Champion Stakes1990年の William Hill Cambridgeshire Handicap1992年のイギリス1000ギニー(2着)が典型ですが、どれだけ馬群が密集していても、一頭分のスペースさえあれば、他馬に一切の不利を与えることなく瞬間的にそのスペースへ進出して抜けてくる。不利を与えるなどの乱暴な騎乗とは無縁ですが、それでいて安全策や「そつのない騎乗」とも無縁で、考えられないようなところに躊躇なく突っ込んでいく。大逃げもシンガリ一気もお手のもの。まさに「繊細」かつ「大胆」、それが最高度に両立している騎手だったわけです。

それは、本当の意味で「正確」な騎乗ができたということでもある。「そこしかない」という場所に、瞬時かつ的確に動いていく。あるいは、「最初からそこにいる」。空間的にも時間的にも無駄が無い。これこそ、真の意味で「正確な騎乗」と言えるでしょう。「結果として」派手な勝ち方に見えるレースであっても、奇を衒うとか、騎乗技術を見せつけようとか、派手に勝って馬の力を過度に見せつけようとかする姿勢は微塵も感じさせません。騎乗センスと騎乗技術が突出しているために、派手に勝たせているように見えることがあるだけで、コーゼン本人はあくまで最も「理に適った」選択をレースごと、馬ごとに行っていただけだと思います。

◆スティーブ・コーゼンのイギリス競馬殿堂入り記念動画

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以下の 1986年 Bovis Handicap (5f, 約1000m, アスコット競馬場) もそのひとつ。

このレースは、スタート後に不利があり位置取りを下げるのですが、すぐに体勢を立て直して馬群の外側に進出。そこから内側へ、隣の馬の脚色を見ながら進路ができた瞬間に移動することを続け、最後に2着馬に馬体をピタっと合わせて(合わせられる馬場中央に馬を移動させて)追い込みを封じて勝利しています。

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前の馬が急に下がったせいで不利を受ける
(それでも軸は一切ブレず、膝下は馬体に対して垂直のまま)

即座に体勢を立て直して中団から進出開始

馬群の外側に進出

シャドーロールの馬2頭を含め、他馬の進路をいっさい邪魔せず徐々に内側へ移動

馬場中央で追い上げてきた2着馬を待つ(接触・アタックなどは一切なし)

叩き合いに持ち込む(いつもの90度の足腰のまま上半身は弾む)

アタマ差で勝利

以下は、1985年のStable Stud and Farm Stakes (7f, 約1400m, ニューベリー競馬場) です。1983年のDubai Champion Stakes1990 William Hill Cambridgeshire Handicap1992年のイギリス1000ギニーほどの一頭分あるかないかのギリギリのスペースに突っ込むような厳しいレースではありませんが、20頭以上の馬が密集しているレースで、後方から追いながら徐々に進路を確保して内ラチ沿いから外へ出し、最後はアタマ差、きっちり差し切っています。

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見せ鞭も見事に使ってアタマ差の差し切り

 

G1レースではありませんが、 1991 Trusthouse Forte mile (1m, 約1600m, サンダウン競馬場) にも触れておきます。5頭立ての少頭数のレースです。コーゼンと共にGⅠを4勝することになるインザグルーヴ (In the groove) に騎乗して最後方からの競馬。少頭数のレースですが(だからこそ)、馬群は密集しています。直線に向いた後、前の馬と接触スレスレの位置で微妙に位置を変えながら我慢。そして、外に至後ろの馬が下がり切った瞬間に、スッと外へ完全に出してから追い出し、差し切って勝利しています。横に0.5頭分、外に出すところも含めて、コーゼンの姿勢も馬の姿勢も、全く乱れることが無い。手応えはあったはずなので、もっと大味な進路取りをしても勝てていたのでしょうが、そういったことは決してやらず、これ以上無理だろうというくらい繊細で緻密な進路取り、他馬との間合い取りを行っています。

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前の馬の背後で後ろの馬が下がり切るのを待つ。

後ろの馬が下がった瞬間に、後ろの馬の前に進出。

外の馬にいっさい接触なしで進路確保し、追い出し開始。

国内外を問わず、「名手」と呼ばれる騎手であっても、このような状況下で進路を確保するとき(特に前の馬の真後ろに入り込んだとき)、馬の首が上がったり、騎手のフォーム(軸や手の位置)が乱れたり、脚のない馬に接触(アタック)したりと、何らかの「乱れ」が見られるものです。しかし、コーゼンが馬群を捌くときは、そうした「乱れ」が本当にみられません。簡単な状況で、簡単なことを、簡単にやっているように見えますが、これくらいのスペースを、これほど滑らかに、そして「常に」移動できる騎手は、ほとんどいないでしょう。

以前のエントリーで、1978年にアファームドで制したケンタッキーダービーの1コーナーの捌きについて軽く触れたことがありますが、コーゼンの馬群捌きは道中であれ最後の直線(追い出し後)であれ、本当に丁寧かつ大胆。他馬に不利も与えず、時間的・空間的な無駄がない。本当の意味で「正確」な馬群捌きができる騎手だったことが分かります。

 

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