コーゼンのフォームの凄さが分かる、リファレンスポイント (Reference Point) で勝利した1987年のイギリスダービーとキングジョージを取り上げます。両レースとも逃げ切り。
身体の軸が全くブレないまま、馬のリズムに寸分の狂い無く合わせて上下に動くコーゼン。それでいて膝下は微動だにしない。この「そこしかない」という場所に乗りながら、馬体に突き刺さったかの如く微動だにしない膝下と、弾むように動く膝上(上体)の運動が完璧に連動したまま馬を追える点が、コーゼンの大きな特徴であり、最大の強みです。
以下にコマ送り画像を載せますが、馬が馬体を開く(伸ばす)ときはコ―ゼンは上に伸び、立ち上がってガッツポーズをする時の位置くらいまで上体(膝から上)を起こします。逆に、馬が馬体を縮めるときは下に下がり、最初から身体を縮めて追っている2番手の騎手より小さく身体を縮めています。最高速度で馬を追いながら、馬が馬体を縮めた際にできる背中の窪みに、まるでパズルのピースがピタりと嵌るようにコーゼンの身体が収まっています。そして、そこからまた上体(膝から上)を上に伸ばす。これでリズムも軸も一切ブレないのは驚異としか言いようがありません。イギリスダービーの最後の追い比べでも、馬と動きと自分の動きを寸分の狂いもなく連動させて、最後の最後まで追えるのがコーゼンです。この強靭な下半身と上半身の寸分狂わぬ連動は、アメリカ時代から共通したコ―ゼンの凄さです(腕の動きが他の身体部位と連動する点、『腕は腕』と腕だけ別の動きにならずに足のつま先から手の指先まで連動する点も、アメリカ時代から共通するコーゼンの素晴らしさです)。
以下は1987年のイギリスダービーの追い方です。

















これは、最近巷で話題の「キドニーバウンス」ではありません。コーゼンは自分の膝のラインより下に腰を落とさず、そのラインから上に伸び上がります。後で紹介するキングジョージは更に分かりやすいのですが、コーゼンが馬を追う時はつま先~膝~腰の角度が90度に近い。馬に負担がかからない理想的な下半身の角度です。その下半身のまま上下に伸縮して馬を追うことが出来る。身体が上下に伸縮する追い方はキーレン・ファロンも共通していますが、コーゼンと比べるとファロンは馬を追う時の姿勢の前傾具合が若干大きく、身体を縮めているときのつま先~腰までの位置が、ライアン・ムーアなどと同じオーソドックスなヨーロピアンスタイルの「ハの字型」です。支点がコーゼンより大きいとも言える。身体の縮め具合見ても、ファロンはコ―ゼンほど小さく縮めてはいません(とはいえ、一人ひとり身体の構造も違うため『唯一正解のフォーム』があるわけではありませんし、ファロンも類稀な才能を持った世界有数の名ジョッキーであったことは間違いないのですが…)。
※コーゼンの様々な追い方や馬群捌きをまとめた記事は以下。
続いては1987年のキングジョージです。
一人だけ、透明な椅子に座りながら追っているかのようなフォーム。
延々と坂を上り続けるアスコットの直線600mを追いっぱなしで、コーゼンは膝の角度(つま先から腰までの角度)が90度に近い状態のまま崩れません。それでいて、上体(膝から上)を上下に、馬の伸縮運動に完璧に連動させて動かすことができる。しかも、それだけ上下に伸縮していても、軸は微動だにしません。膝からつま先が馬体に対して垂直のまま、一切ブレずに追ってくる。
まるで、コーゼンの足が馬体に突き刺さっているかのよう。





先のファロンとの比較でも述べましたが、いわゆるヨーロピアンスタイルの騎手の多くは、直線で馬を追うとき足を折りたたんで(膝~膝下を馬体に近づけ、ひざとひざの間を狭めたハの字型の足で)追います。それで支点を大きめに作り、そこを起点にして上体を動かしています。しかしコ―ゼンはつま先から腰までが膝を介して90度に近い状態を維持したまま、馬と騎手の支点が限界まで小さくなった状態のままで追ってきます。この下半身の特徴、馬上での位置(馬と騎手の重心の合わせ方と軸の作り方)は、以下に載せるフランス史上最高の騎手であるイヴ・サンマルタン (Yves Saint-Martin) や、日本の福永洋一とそっくりです。彼らはお互いに影響を与え合ったわけではなく、感覚的に、結果として同じ姿勢を取っています。そしてコーゼンの凄さは、その限界まで小さい支点を維持した下半身に、膝から上の上体部分の上下の伸縮を加えて追うことができることです。そうやってコーゼン自身の動きを馬の動きに完璧に連動させ、腕も含めた全身で馬を追うことができることです。それでいて、軸も膝下の位置も微動だにしない。これがスティーブ・コーゼンの凄さであり、アメリカとイギリス(ヨーロッパ)の両方で圧倒的な成績を収めることができた大きな要因だと思います。
(※参考①イヴ・サンマルタンの追い方
Les belles histoires de l'Arc - Yves Saint-Martin - YouTube
Avant le Prix de l'Arc de Triomphe - YouTube
参考②福永洋一(1977年桜花賞 インターグロリア)
https://www.youtube.com/watch?v=Gvf_7T7hhbs&t=178s
参考③福永洋一(1978年マイラーズカップ インターグロリア)
1978 マイラーズC インターグロリア - YouTube
参考④福永洋一(1着)とイヴ・サンマルタン(2着)が騎乗した1977年京阪杯
第22回京阪杯 シルバーランド 引退レース 昭和52年1977 - YouTube)













以下は1987年キングジョージのレース映像。なお、このレースに限らず、スティーブ・コ―ゼンの道中での姿勢は、福永洋一の姿勢にそっくりです。もちろん、お互いのことは全く知らず影響も与えあっていませんが。真の天才同士の持っていたバランス感覚が共通していた、結果としてそっくりな姿勢を取っていたということです。そして、これだけ姿勢が似ていれば感覚も似ていたのだろうと思います。おそらくツーカーで話が通じる、話す前から相手の言いたいことが分かるくらいに・・・。
日本では「身体が上下動しない(水平な)追い方が素晴らしい」という言説をよく見かけますが、それは馬を追う際に上下動によって騎手の重心や軸、馬と騎手とのリズムがブレる場合に対しては妥当な考えだと言えます(言い換えれば、無駄な上下動、自ずから身体が連動するのではなく頭で考えたチグハグな追い方になっている上下動に対しては妥当)。
しかし、軸も重心もリズムもブレないまま、馬と騎手の支点を限界まで小さくした状態で、身体を上下に動かして追うことができる騎手も存在するのです。コーゼンが直線で馬を追っている映像を見ると、むしろ他の騎手に比べて身体を動かしていないように見えます。しかしスローモーションで見ると、他の騎手以上に上下に弾むように動いていることが分かります。なぜ動いているように見えないかといえば、軸が寸分もブレず、膝の位置も微動だにせず、馬のリズムと完璧に同期しながら、膝から上だけが上下に伸縮しているからです。
◆コーゼンの追い方を「スロー再生→通常再生」で確認する
(※参考:1989 Guardian Classic Trial
このレースの最後の直線の叩きあいを見ると、内側のマイケル・ロバーツ (Michael Roberts) の方がコーゼンより上下に動いている(身体を動かしている)ように見えますが、実際はコーゼンもロバーツと同じくらい上下に伸縮しています。再生速度を落としてみると分かりやすいです。

コーゼンの方が動いていない様に見える理由は、上述した通りです。)
とはいえ、弾むように上下に動きながら(これ以上は無理だろうというくらい伸び縮みを繰り返しながら)重心・軸・リズムが寸分狂わず、限界に近いくらい支点を小さくしたままでここまで追うことができているのは、私が知る限りスティーブ・コーゼンと、X(旧Twitter)上で見ることができた、東海ジョッキーカップ(1982年・名古屋競馬場)での坂本敏美だけですが・・・(ご興味のある方はXで検索してみてください。坂本敏美さんが騎乗されているレースの映像が3レース分、存在します。他の2つは、1981年・東海桜花賞(2着)と1984年・アラブ大賞典です。驚くべきことに、3レースそれぞれの直線で馬を追うフォームが別の騎手に見えるくらい違う。国宝級の映像だと思うのですが、あまり話題になりません・・・)。
◆1981年 東海桜花賞(坂本敏美が騎乗したカズシゲは2着)
ちなみに、先にも触れた、かつて名古屋競馬に在籍していた伝説の騎手・坂本敏美さんは「ポンプ」と呼ばれるほど激しく身体を上下に動かしていたと読んだことがあります。もしかしたら、ヨーロッパ時代のコーゼンの追い方と通ずるところがあったのではないか・・・と、1982年東海ジョッキーカップ直線での坂本騎手の追い方を見てから考えているのですが(東海ジョッキーカップの坂本騎手の追い方は、コーゼンのヨーロッパ時代の追い方の中では1985年のロイヤルロッジステークス、1987年のセントレジャー、1990年のキングジョージ(2着)の追い方の3つが強く似ていると感じました)、もし当時の坂本騎手の騎乗についてご存じの方がいらしたら、コメントでその是非をお教えいただきたいです。よろしくお願い申し上げます。
(※Wikipediaの坂本敏美の項目でリンク切れになっている「『高知競馬』という仕事」という記事のアーカイブです。生前の坂本さんのインタビューや坂本さんの騎乗を間近で見られた騎手の方のインタビューも載っています。とても貴重な資料です。
https://web.archive.org/web/20050207005526/http://www.kochinews.co.jp/rensai02/keibafr.htm)
最後に、同じく1987年にアスコット競馬場で行われたHoover Mile (Diminuendo) と、ラムタラの母馬スノーブライドに騎乗して勝利した1989年のPrincess Royal Stakes を載せておきます。コ―ゼンの追い方の素晴らしさが分かりやすく映っています。
以下はHoover Mile. 膝がゴムのように柔らかく上下に動く。それでいて膝下は馬体に対して垂直で、軸がブレない。
以下はPrincess Royal Stakes です。最終コーナーからの映像なのですが、画質が悪く動きがカクついているからこそ、コーゼンの微動だにしない下半身、全身を使って追うという表現が相応しい上体の動き、そして何より腕と拳の使い方の素晴らしさが映っています。ロイヤルブルーの勝負服ということもあり、ランフランコ・デットーリかと見紛うほど。腕の使い方が本当に鮮やかです。コ―ゼンは腕や拳の使い方も見事。ランフランコ・デットーリやジョアン・モレイラに引けを取りません。
武豊騎手が「あの人こそ天才」と激賞したコ―ゼンのヨーロッパ時代の騎乗スタイルが、こうしたフォームに凝縮されています。
number.bunshun.jpアメリカ時代のフォームは以下のエントリーで触れています。


















