スティーブ・コーゼンの軌跡

英米でリーディングに輝き、5か国のダービーを制覇した天才騎手スティーブ・コーゼン (Steve Cauthen) に関する情報を記載します。

コーゼンの名騎乗 ー1990 William Hill Cambridgeshire Handicapー

私はこのレースこそ、スティーブ・コーゼンのベスト騎乗だと思います。

 

コーゼンの名騎乗、特に馬群捌きの凄さで有名なのは、先の記事でも取り上げた1983年のDubai Champion Stakesだと思いますが、この記事で取り上げるレースの馬群捌きはその上をいくと思います。

 

距離は1m1f(約1800m)、ニューマーケット競馬場で行われた直線のみの伝統のレース。

40頭が出走している、戦争みたいなレースです。

コーゼンはこのレースで道中39番手を進み、全頭をなで斬りにしました。

残り600m付近から追い出して前の十数頭を捌いてゴボウ抜きにしたところも凄いですが、このレースの白眉は残り200m付近での一瞬の進路変更の場面だと思います。

この進路変更は神業だと思います。

 

コーゼン騎乗のRisen Moonは、ラチ沿いにいる白帽・緑の勝負服。

よく見ると、ラチ沿い最後方のコーゼンの白帽が、ラチ沿いから馬群中央までヒューーンと飛ぶように動いているのが分かります。

その後、前の馬群を捌いて、あっという間に先団に接近。

その後、前を行く青い勝負服の馬(馬群から抜け出したあと左から右にヨレてフラフラしている馬)の直後で、自らの馬の進行方向を右側から左側にノーブレーキ、ワンアクションで変更しています。

 

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最後方から進出開始

右側に飛ぶように進出

馬群の間を縫って

先行集団に接近

左鞭を入れて馬場の中央(前の馬の右側)へ進出。前の馬は左から右にフラフラとヨレる。

左鞭を入れる(まだ前の馬の右側に進行中)

鞭を入れた直後に左手を手綱に持っていく

左手で手綱を持つと同時に僅かに左側に引く

ワンアクションで瞬間的に馬一頭分、左に進路変更(ブレーキや減速ゼロ)

前の馬の左側に進路変更完了(騎乗のリズムも軸ブレもゼロ)

追い出しから最後のひと捌きまでの間、ノーブレーキ、軸ブレゼロです。

というより、残り600m地点からの仕掛けからゴールまで一度も手綱を引いたりブレーキをかけたりしていません。

あまり知られていないレースかもしれませんが、最後方から前の数十頭を捌いて進出したところを含めて、世界の競馬史に残る馬群捌きだと思います。

もし興味を持たれたら、最後の進路変更の箇所は動画の再生速度を一番遅くしてコマ送りでご覧になっていただきたいです。

コーゼンの名騎乗 ー1983 Dubai Champion Stakesー

2022年にレーシング・ポストが行ったインタビューでも取り上げられていたレース。

最内シンガリにいるのが、弱冠23歳のコーゼン騎乗が騎乗するCormorant Wood。

とんでもない所を捌いてきます。

 

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最初にこのレースを見た時は最後追い出しを開始した際、

コーゼンが追いながら斜めに進行したのかと思いましたが、そうではありません。

上記動画のリプレイ部分を見ると分かりますが、最後に馬群の狭い箇所に進出する際、一頭分、安全に左へ進路変更し、その後に追い出しを開始しています。

その後にブレーキをかけたのは、前にいる赤い勝負服の馬(17番)がラチ沿いから外にヨレて急激に進路変更したためです(上記動画の6:25~)。コ―ゼン自身に非はありません。それどころか、一瞬スペースが開いた瞬間いっさい他馬の邪魔をすることなく一頭分だけ進路変更しています。いったん体勢を崩しかけますが、簡単に馬を御して態勢を立て直した後、前2頭の間を割ったところがゴール。

 

馬群が壁のように密集し、全ての馬が全力で走っている個所で、これだけ冷静かつ的確な判断をして馬込みを捌ききったのは見事というほかありません。